社会科学 法学 民事法 比較法 不当利得 擬制信託 優先的取戻し ATMやトイレなどが複数ある所に一列に並び、順番通りに空いた所に行く「フォーク並び」に対し、各窓口にばらばらに並ぶと後から並んだ人が先に進むことがあります。法制度の中にも、ばらばらに並ぶときのように不公平な制度があります。そうした法制度により、本来持つ権利を行使できない人がいたとしたらどうでしょうか。ある人に帰属すべき利益を返すように主張する「不当利得」の制度における「擬制信託」という概念を研究することで、財産価値の帰属の改善方法を模索しています。 ・日本における信託法や担保・投資制度の導入→日本でも「不動産投資信託(REIT)」など、不動産を証券化し小口化した個人向けの金融商品が登場しています。こうした商品等の裏付けになる金融・ビジネス分野における法律には、アメリカの法制度が多く参考にされています。・米法にある「擬制信託」という公平の制度→返す義務のある人の有する価値を、本来帰属するべき人に返さなければならない制度を「不当利得」といいますが、他にも債権者がいる場合に必ず取り戻せるとは限りません。そのような場合に「信託法」の考え方を利用して、本来物や価値の帰属するべき人だけが他の債権者に優先して取り戻せる制度として「擬制信託」があります。日本の法にこの制度は導入されていません。・問題となる事例の研究→運用上便利な法制度のみを導入し、弱者救済の機能を持つ「擬制信託」の制度を取り入れないのはおかしいのではないでしょうか? あるいは、日本においては別の法制度で同じことをしているので必要がないのでしょうか?実際に問題となっている事案を、アメリカの論文を元に事例研究しています。・これまでの成果「カリフォルニア州における擬制信託の機能類型」鹿児島大学法学論集50巻1号(2015年11月)にまとめました。・今後取り組む課題アメリカ法でもまだ救済されないケースが存在します。「一体どのように制度設計するべきか?」が現在取り組んでいる課題です。「圧倒的な悪人がいる場合」とは限らない現実の問題をどう処理するかが、特に難しいところです。 不当利得の制度は民法上の様々な制度に関連しています。擬制信託の法理によって、他人を欺く者が得をしたり財産を隠すことが可能な状況を少なくする制度を作ることが目的です。本研究を進めることで、直接的には日本の法律を作成する方々へのヒントの提示や意見表明となる効果を狙っています。そのために具体的な判例を集めて分析する中で、可能であれば具体的な法的解決への基準づくりを模索していきます。若手研究者や学生とともに、問題意識を次世代につなげたいと考えています。 ●九州法学会2015年総会での口頭報告。●アメリカの信託法リステイトメントについての共同研究に参加(2014~2015年度)●法学専攻でない学生向けの入門書『ロードマップ民法入門』(一学舎・2016年)の執筆に参加。 民法のうち財産法を専門とする法学者。「擬制信託」というアメリカ法にある公平の制度を研究しています。具体的な判例を研究することで、法的解決の基準作りの可能性を模索しています。
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