血友病 小児科学 血栓止血学 患者教育 血友病 在宅自己注射 定期補充療法 血友病は凝固因子の不足で出血が止まりにくい遺伝性疾患です。凝固因子を補充する定期補充療法により、関節内出血が減り運動制限などもほとんどなくなりました。しかし定期補充療法には週1−3回の静脈内注射が必要です。親や本人による自己注射が認められていますが、小児では血管確保等が難しいため、注射のための受診、旅行先などでの出血時の対応等が大きな負担になっています。そこで低年齢から自己注射指導を行い、静脈注射手技を獲得するためのプログラムの構築を行っています。 血友病は凝固因子が不足することで主に男児に発症する遺伝性出血性疾患で、日本には現在約7,000人の患者がいます。主な症状は肘、膝、足の関節内出血で、関節内出血を繰り返すと関節が伸びなくなる血友病性関節症を起こします。(右図)現在は凝固因子を週1−3回投与することで関節内出血を防ぐ定期補充療法が主流となり、関節症の発症は少なくなりました。凝固因子製剤の在宅自己注射が認められていますが、小児の場合「静脈注射が難しい」や「恐怖で暴れる」ことから、病院で行われることが多い状況があります。本人が低年齢から自己注射手技を獲得すれば、注射のための通院等の負担が減り、生活の質が上がります。小児特有の注射への恐怖・注射針の痛み注射の難しさ・5歳以降は静脈が発達してくる、大人の指示をある程度理解して動くことができる・塗布局所麻酔薬の積極利用と五感を利用したスモールステップでの注射への恐怖感の払拭①注射の道具を見て、触る(視覚・触覚で理解)②注射をしている人を見る(視覚で注射の行為を理解)③模型に注射をする(触覚と動作で注射の行為を理解)④他人に注射をする(人に針を刺すことに慣れる)⑤自分に注射をする(針を刺す、刺される感覚を学ぶ)私たちは修学旅行などの学校のイベントを目標に、血友病の小児が、5歳以降、当院への外来通院の中で自己注射の手技を獲得できるように、右上のような順序で注射手技の獲得を指導しています。小児の発達段階に応じた注射指導のコツなどを具体化して専門施設以外でも広く利用できるプログラムにすることを目指しています。 本研究が一般的に利用できる自己注射手技獲得プログラムとして構築できれば、血友病の非専門施設でも静脈内注射手技をスムーズに獲得できるため、患者と家族の負担を軽減できます。血友病以外の小児で自己注射を行う疾患にも応用できると期待されます。注射指導の中で自己注射に対する患者・家族の思いを拾い上げることで隠れたニーズを見出し、新たな課題の研究開発に繋がる可能性もあります。例えば、より効果的な麻酔薬や無痛の注射針、専用の静脈注射用機器などを想定しています。 ●私自身に血友病があり、患者として幼少期からの自己注射の経験があります。小児科医としての小児の発達に応じた患者への指導経験を加えて、医師と患者両方の視点から取り組めるのが強みです。●自己注射のための機器等の開発にも取り組みます。 血友病患者は幼少期から凝固因子の定期的な注射が必要。通院負担を減らすため、小児でも自分で静脈注射ができる訓練プログラムを開発中。自己注射が簡単になる機器等の開発にも共同で取り組む企業等を求めています。
PDFファイル:57-Mf-nakamura-hos-SDGs3.pdf