悪性腫瘍 病理学 診断病理 がん遺伝子 病理 脳腫瘍 子宮内膜癌 遺伝子パネル検査 がんの診断基準は日々変わっています。近年では解析機器の進歩から遺伝子レベルで多くの情報が得られるようになりました。それに伴い、従来の組織学的な悪性度(見た目の悪さや細胞の形)による診断から、がんの遺伝子異常によって診断名が決まるようになり、いくつかの悪性腫瘍においては、がん遺伝子を調べなければ、診断名が決まらない時代になっているのです。そこで私は、安価にがんの遺伝子異常を見つけることができる検査方法を開発し、実際の診断で運用しています。 遺伝子異常の種類によって、予後や悪性度、薬が良く効くタイプなどを分けることができる代表的な悪性腫瘍に、脳腫瘍と子宮体がんがあります。この2つの腫瘍は現在のWHOの診断基準により、遺伝子異常を調べなければ、診断名を決めることができません。多くの遺伝子を一度に調べることができる検査手法として「遺伝子パネル検査」があり、鹿児島大学病院でも実施しています。しかし国内でのこの検査の目的は、様々な悪性腫瘍を対象として適切な薬をみつけることで、診断目的ではありません。さらにこの検査は標準治療が終了、もしくは終了見込みの患者さんが対象とされるため、検査を受けるタイミングでは病状はかなり進行しています。検査する遺伝子数も300-400と多く、調べる遺伝子数が多いほど検査費用は高額になります。そこで私は、領域に特化した遺伝子パネル検査を開発し、病理診断の際に先行して実施できる診断用遺伝子パネル検査の開発を行っています。領域を絞ることで調べるべき遺伝子数が減り、コストを下げることができます。これまでに、脳腫瘍、子宮・卵巣、甲状腺・唾液腺、肉腫、それぞれに対応した診断のための遺伝子パネル検査を開発しました。脳腫瘍の診断用パネル検査は、慶應大学病院と共同で先進医療として実用化を目指しています。また子宮や甲状腺は、針などで患部から腫瘍を採取する細胞診という侵襲性の低い検査を利用し、わずかな細胞残余を診断用パネル検査に利活用する研究を行っています。細胞診検査は、診断の早い段階で行われることが多い検査です。早期に診断用パネル検査を実施することで、正確な診断結果を初期段階で得ることができ、適切な治療方針の決定に役立てることが期待できます。診断のための遺伝子パネル検査の保険適用を目指して、研究を進めています。 日本の遺伝子パネル検査は、欧米で大規模な多遺伝子解析が終了した成果で運用されているのが現状です。しかしこれまでの研究により欧米の遺伝子異常の結果と我々の結果では、脳腫瘍において特徴が異なることがわかってきました。よって日本独自の(日本人ゲノムに特化した)大規模なデータの集積は必須です。WHOの診断基準も、欧米の大規模な解析の結果によることから、診断基準を明確なものにするために更なる研究が必要です。他の悪性腫瘍に関する研究も推進していきます。 ●脳腫瘍診断のための多施設共同研究「Project IntelliGence」がスタート。国内の脳神経外科の先生方と、診断のための遺伝子パネル検査の有用性を示す研究が進行中です。●細胞診検体を利用した遺伝子パネル検査手法は多くの方に引用されています。 がんの遺伝子異常の解析を早期に行う、診断用遺伝子パネル検査の開発を行っています。初期段階での的確な診断と治療に繋がる研究。保険適用を視野に入れています。病理診断に協力いただける臨床の先生はご連絡ください。
PDFファイル:54-Mf-akahane-hos-SDGs3.pdf