消化管がん 消化器内科学 消化器内視鏡学 内視鏡的粘膜下層剥離術 ESD 合併症予防 近年、内視鏡技術の発展に伴い、早期に発見された消化管がんは、主に内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という技術を用いることにより、手術を行わずとも切除が可能になってきています。しかし、食道・胃・大腸など消化管の壁は極めて薄く、癌を切除した部位は粘膜が欠損された状態(人工的な潰瘍)となり、出血や穿孔(消化管に穴が開く)などの合併症が起きることがあります。本研究はこのようなESD治療に関わる合併症を回避する有効な手段になると考え、実用化を目指しています。 タラのゼラチンを原材料とする組織接着性粒子を開発した(国研)物質・材料研究機構の田口哲志氏(鹿児島大学出身)と共同研究を行っています。この粒子を既存の内視鏡デバイスに注入し、内視鏡を通じてがん除去部に局所的に噴霧することで、欠損部の水分を吸収して被覆層を形成し、強固に接着します。我々は、まず胃ESD動物モデルにて、消化管に対する効果を検証しました。その結果、粒子噴霧群は、消化管欠損部位(潰瘍)の炎症・線維化を抑えることを明らかにしました(Small2019)。さらに、最も消化管壁の薄い十二指腸ESDでの有用性を明らかにするため、ミニブタを用いて十二指腸穿孔モデルを作成しました。その結果、粒子噴霧群は効果的に合併症(穿孔)を防止できることを明らかにしました(図1.Digestionin Press)。また、食道がん治療後の問題である、食道狭窄にも着目し、ミニブタの食道狭窄モデルを作成しました。その結果、粒子噴霧群は効果的に合併症(狭窄)を軽減できることを明らかにしました(図2JDDW2022)。現在、大腸ESD後に生じる腹痛・発熱などを生じるESD後凝固症候群やESD後出血に対する予防効果について検討を重ねています。 十二指腸がんや抗血栓薬を服用する胃がん患者のESDには、30%程度の合併症リスクが伴います。本製剤を実用化することができれば、現在数多く行われている消化管がんに対する内視鏡治療がより安全に実施でき、切除後の狭窄に苦しむ患者さんへの福音になります。さらに確実に粘膜欠損部を被覆することにより、日帰り手術の実現にもつながると期待しています。また本研究には本学が独自に開発した、実験に最適なミニブタを用いており、鹿児島発の新技術として発信できると考えています。 ●・Nishiguchi A, Sasaki F, et al. Dissection. Small. 2019;15(35):e1901566.・Kabayama M, Sasaki F, et al.. Digestion. In Press●JDDW(日本消化器関連学会週間)Best presenter award (2021 & 2022) 早期の消化管がんに用いられるESDは、体への負担が少ない最新の治療法。その合併症を軽減する新規製剤の実用化を目指しています。内視鏡治療の専門家が研究を行うことで、現場に即した新技術の開発が期待できます。
PDFファイル:52-Mf-sasaki-med-SDGs3.pdf