窒素固定菌 分子生物学 微生物学 窒素固定 アンモニア 遺伝子 放線菌 フランキア ベシクル 地球上の大気の約80%の窒素ガスです。窒素ガス(N2)をアンモニア(NH3)に変換する反応は「窒素固定」と呼ばれます。アンモニアは植物の窒素養分や発電燃料となる重要な化合物です。地球上での窒素固定の半分以上はバクテリア(細菌)によって行われ、土壌や海洋などには窒素固定を行う能力をもつ多種多様なバクテリアが存在します。私たちはその中でも「フランキア」という細菌種を研究対象として、効率よく窒素固定を行うために必要な遺伝子の同定に取り組んでいます。 窒素固定を行う酵素は酸素に非常に弱いため、多くの窒素固定バクテリアは酸素濃度の低い環境でしか窒素固定を行えません。しかしバクテリアが呼吸によって窒素固定反応に必要なエネルギーを生産するためには酸素が必要なので、このようなバクテリアは窒素固定の効率があまり高くありません。フランキア(Frankia)は、窒素固定酵素を酸素から守る特殊な構造(ベシクル)を作ります。ベシクルは周辺を厚い外壁に覆われているため、それが内部への酸素流入を防ぎ、酸素が多い環境でも呼吸でエネルギーを得ながら活発に窒素固定を行うことができます。私たちの研究室では、窒素固定を行えないフランキアの変異体を多数単離しました。それらの中には、ベシクルをほとんど作れないものや、外壁が厚くならないものが含まれています。つまりこれらの変異体では、ベシクルの正常な発達に必要な遺伝子が変異を起こしていると考えられます。現在変異体のゲノム解析などを行うことにより、これらの遺伝子の同定を試みています。フランキアが酸素存在下でも効率的に窒素固定を行うことを可能にする、ベシクル形成に必要な遺伝子の解明を目指しています。 窒素固定で生成されたアンモニアは植物に吸収されて、タンパク質など生命に重要な物質を作るために使われ、食物連鎖を経て動物の成長にも使われます。優れた窒素固定能力をフランキアが獲得したメカニズムを遺伝子レベルで解析しています。フランキアは荒廃地の森林再生にも役立っています。私たちはフランキアを園芸や農作物への天然由来の肥料として活用できると考えています。フランキアの細胞を使ってアンモニアを合成するバイオリアクターの開発にも興味を持っています。 ●成長が遅いフランキアを培養する技術を持っています。土壌や海洋などの環境中から、窒素固定細菌を単離や同定することも可能です。●数十種のフランキア株を保有しています。目的に応じて適切な種を選別することも可能です。 窒素固定細菌、フランキアの独自性に着目。高い窒素固定能力に必要な遺伝子の解明に取組んでいます。数十種のフランキア株を有し、環境中からの単離・同定も可能。有機肥料やバイオリアクターへの展開が期待できます。
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