脳科学 脳神経科学 最初期遺伝子 情動 てんかん 術後認知障害 遺伝子改変 疾患モデルマウス 脳内の神経細胞は、生命活動における様々な場面に応じて協調的に活動し続けています。各種の神経・精神的疾患の多くは、神経活動の協調性に乱れが生じることで最終的に表面化します。つまり疾患や行動異常が表出しているときの脳内の神経活動を広く可視化することで、異常に関わる脳エリアの特定など原因解明の手掛かりを得ることが可能になります。我々は独自の遺伝子改変・疾患モデルマウスを用い、それらが異常行動を表出する際の神経活動を可視化して疾患原因の理解に迫ります。 神経活動の可視化は、「広く」見る方法と、「狭く詳しく」見る方法の二つに分けられます。「広く」見る方法の場合は、主に神経活動に伴って発現が亢進する遺伝子(最初期遺伝子・IEG)を利用します。その際に通常用いるのは、抗体を利用して最初期遺伝子の発現分布をみる免疫組織化学的手法です。我々はこの手法を発展させて、最初期遺伝子プロモーターの下流に緑色蛍光タンパク質を組み込んだ遺伝子導入マウスを作出して用いています(図1)。この遺伝子導入マウスを用いることにより、従来法と比べて迅速かつ、ノイズが低く精度の高い解析が可能となるため、マウス脳の広い領域(場合によっては脳全体)に渡って効率的な神経活動解析が可能になります。たとえば恐怖体験時は脳内の情動に関連する扁桃体という部位の周辺で、広く神経活動が亢進します。その際、情動機能に障害があるマウスは、扁桃体周辺の「どこか」で「何らかの」神経活動の異常が生じていると考えられます。プロット解析を通じて、健康なマウスと比較することで、どの脳機能に異常があるか、詳細を明らかにできます(図2)。最初期遺伝子の発現は活動後1~2時間を要するため、時間的制度が低いのが「広く」見る方法の弱点です。現在その欠点を補うことを可能にする、新たな遺伝子導入マウスの開発を進めています。「広く」見て、着目すべき脳エリアが特定された後は、超小型顕微鏡と生きた神経活動の画像解析を用いた「狭く詳しく」見る方法によって、詳細な神経活動異常を解析していきます。 「広く」神経活動を可視化する方法は、何らかの異常行動を示す疾患モデルマウス全般で応用可能であり、これにより疾患の原因となる(着目すべき)脳部位を絞り込むことが可能です。精神疾患や発達障害では情動機能に障害がある例が多く、図2に示したような扁桃体での神経活動解析を通じて脳神経機能障害の詳細が明らかになると期待されます。また、てんかんのような異常神経活動についても、モデルマウスを用いた解析が進行中です。様々な脳神経系の疾患に応用が可能な技術です。 ●東京大学先端科学技術研究センターと共同で、てんかんモデルマウスの解析を進めています。●本学医歯学総合研究科の侵襲制御学分野と、手術後認知障害のメカニズムの解明を目的とした共同研究を進めています。 脳内の神経活動を可視化することで、神経・精神疾患の根源的原因の解明に迫る研究。効率的に神経活動を可視化できる独自のモデルマウスを開発しています。脳神経系疾患の研究者との連携やマウスの提供・解析が可能です。
PDFファイル:33-Ls-kiyama-med.pdf