記憶改善 記憶改善 神経細胞 アストロサイト ミトコンドリア PACAP 高次脳機能 「乳酸」にはどの様なイメージがあるでしょうか? 激しく運動したときに筋肉に蓄積する「疲労物質」としての認識が強いのではないかと思います。現在ではこの認識は誤りであると判明しています。実は,乳酸は筋肉の活動を助けるエネルギーとして働くのです。筋肉と同様に,脳においても乳酸は神経細胞のエネルギーとして働き,何かを覚えることや,思い出すことを助ける可能性が示唆されています。私たちは脳内で乳酸がどの様に作られ,作用するのかを解明する研究を行っています。 記憶を司る脳の中には,神経細胞とグリア細胞と呼ばれる2種類の細胞が存在しています。特にグリア細胞の一種であるアストロサイトは神経細胞にエネルギーを供給する役目を担っていることが知られています。最近開発された技術によって,神経細胞だけ,またはアストロサイトだけの活動を調節することができるようになりました。その結果、アストロサイトの活動を高めると記憶のパフォーマンスが良くなり,神経細胞の活動を高めた場合では悪くなることが分かりました。このことから,アストロサイトを活性化することによって,何かを覚えたり,思い出すことが効率的にできるようになると考えられます。 それでは,脳内で活性化したアストロサイトは何をするのでしょうか?アストロサイトは神経細胞にエネルギーを供給する役目を担っていることから,アストロサイトが活性化するとエネルギー源として乳酸を神経細胞に渡していると考えられます。私たちは,実際にマウスが何かを覚える時に,脳内の乳酸が増えることを見出しました。 さらに,どの様な物質が乳酸の増加を司令するのか検討を進め,そうした候補分子の1つとして下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド (PACAP)という分子を見出すとともに,PACAPから乳酸増加までのシグナルメカニズムを明らかにしました。 本研究の成果は1) 効率的な学習を可能にする 2) 認知症を改善できる「健康食品および医薬品の開発」に繋がる可能性があります。私たちの研究室では,培養アストロサイトを用いた乳酸量の測定と乳酸増加までのシグナルを検出する実験系を用いて,食品成分や医薬品候補化合物のスクリーニングを行うことができます。スクリーニングで検出された分子をマウスに投与し,実際に記憶のパフォーマンスを良くするか? 脳内の乳酸を増やすか?など,生体レベルでの検討が可能です。 ●不純物を含むサンプルを,油への溶けやすさなどの物理的性質で分画し,細胞を用いた活性物質のスクリーニングを行っています。そこから見出された分子の作用を、細胞やマウス個体で測定する一連の検討が可能です。 記憶機能を活性化する乳酸に注目。乳酸を増加させる物質を独自の実験系を用い探索しています。記憶力UPに資する食品・医薬品の開発に協力できます。活性物質の探索にメタボローム解析の専門家との連携も求めています。
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