尿路上皮がん 分子生物学 尿路上皮がん 泌尿器科 癌 バイオマーカー 尿路上皮がん マイクロRNA 尿路上皮がんに対して一般的な尿細胞診検査は感度が低いことが問題です。近年、明らかになった「マイクロRNA(リボ核酸)=miR」は細胞内で、種々の遺伝子の転写調整に関与しています。これは「癌があると発現が変動する」という発現パターンを示すため、癌関連遺伝子的役割を持つと考えられています。マイクロRNAは分解されても比較的安定した検出が可能です。我々は尿中のマイクロRNA検出が、尿路上皮がんのより高感度な検査法として有用である可能性を検討しました。 方法:尿路上皮がん患者(n=85)、非がん検体(健常者(n=49)および尿路感染症患者(n=15)から30ccの尿を集めてTotalRNAを抽出しました。リアルタイムPCRによりmiR-96とmiR-183(我々の以前のマイクロRNAスクリーニングデータからの腫瘍マーカー候補)の発現量を測定しました。PCR:特定の断片を増幅する遺伝子の検査手法ROC:スクリーニングテストの精度評価分析法ROC曲線分析(尿路上皮がんvs.非がん)miR-96miR-183尿におけるmiR-96とmiR-183のがん患者での発現は有意に高く、ROC曲線分析ではがん患者と非がん患者を高い感度と特異度をもって区別することが可能でした(左図)。尿細胞診単独での診断感度は44.6%でしたが、miR96の診断感度は単独でも64.6%あり、両者を併用することで、75.4%の感度を達成できました(下図)。尿細胞診36(55%)29(44.6%)miR-9616(24.6%)42(64.6%)miRNAAUCS.E95%C.I.Cut-offSensitivity(%)Specificity(%)20(30.8%)miR-960.8180.0340.747-0.877289miR-1830.8120.0350.740-0.87132164.777.792.375.0尿細胞診+miR-9616(24.6%)49(75.4%)Sensitivitiy(感度):陽性と判断されるべきものを正しく陽性と判定する割合Specificity(特異度):陰性と判断されるべきものを正しく陰性と判定する割合:陰性 陽性尿細胞診とマイクロRNA検査を併用することで、尿によるがん診断感度を上げることができます。内視鏡検査などを行う前の、負担の少ない尿路上皮がんの診断法としての応用が期待されます。マイクロRNAは進行によって発現量が変化するため、初診時のがん診断や早期発見はもちろん、病期(ステージ)進行の予測や手術後再発のマーカーとしても有用ではないかと考えます。今後、企業等とタイアップして臨床検査での試験数を増やすことで、データを精査して行く予定です。 ●本研究は以下の特許を取得済みです。「miRNA発現プロファイリングに基づく尿路上皮癌の検出方法」(特許第5884219号)「miRNAの量を尿路上皮癌の指標として用いる方法及びキット」(特許第6898630号) 尿中のマイクロRNAに注目、尿路上皮がんの腫瘍マーカーとして有用と証明しました。臨床試験に協力いただき治験データを増やせば、楽で精度の高い検査方法としての実用化が可能。検査キット開発なども期待できます。
PDFファイル:16-Mf-enokida-med1.pdf