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分化コントロール化合物を用いて造腫瘍性をもつおそれのある未分化iPS細胞等の混入を除去する方法 NEW

国内特許コード P210017725
整理番号 (S2018-0212-N0)
掲載日 2021年5月26日
出願番号 特願2020-510470
出願日 平成31年2月27日(2019.2.27)
国際出願番号 JP2019007471
国際公開番号 WO2019187918
国際出願日 平成31年2月27日(2019.2.27)
国際公開日 令和元年10月3日(2019.10.3)
優先権データ
  • 特願2018-064199 (2018.3.29) JP
発明者
  • 中島 義基
  • 大政 健史
  • 野口 洋文
  • 潮平 知佳
出願人
  • 国立大学法人琉球大学
発明の名称 分化コントロール化合物を用いて造腫瘍性をもつおそれのある未分化iPS細胞等の混入を除去する方法 NEW
発明の概要 【課題】幹細胞から誘導される分化細胞において、未分化な幹細胞の混入のない分化細胞を調製するための技術の提供。【解決手段】分化コントロール化合物としてLiarozole、Pioglitazone、Silibinin、Chrysinのいずれか又は複数を含む、幹細胞由来の培地を提供する。分化コントロール化合物は、未分化な幹細胞に特異的な生存抑制活性を有し、分化細胞の細胞死を誘発することなく、未分化幹細胞の生存を抑制する。したがって、本発明に係る培地によれば、未分化幹細胞の混入がない分化細胞を得ることができる。【選択図】図1
従来技術、競合技術の概要

人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)等の多分化能幹細胞を用いる再生医療技術の課題のひとつは、多分化能幹細胞を所望のタイプの細胞に分化させた後に患者の体内に移植する際に、多分化能幹細胞が未分化状態のまま残存し、分化した細胞とともに患者の体内に移植され、患者の体内で腫瘍及び癌化する危険を如何に防止するかである(非特許文献1参照)。

造腫瘍性をもつおそれのある未分化iPS細胞等の混入を評価する試験系としては、未分化多能性細胞特異的なマーカーや分化能の高い細胞に特異的なマーカー(非特許文献2参照)の発現を指標にしたフローサイトメトリー解析や定量的RT-PCR(qRT-PCR)法が挙げられる。しかし、いずれも一定の頻度以下の未分化多能性幹細胞の混入は検出できない。そのため、最終製品の安全性評価には、未分化多能性幹細胞を培養条件に戻して培養してiPS細胞等のコロニーが出現しないことの確認などが必要である。

化学分子データベースPubChem(https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov)から、Liarozoleの試薬名や化学式は提示可能である。Liarozole(6-[(3-chlorophenyl)-imidazol-1-ylmethyl]-1~{H}-benzimidazole、化1参照)は、シトクロムP450RAI(retinoic acid inducible=レチノイン酸誘導性)酵素阻害薬の一種である。

【化1】
(省略)

シトクロムP450RAI阻害剤は、現在、ケトコナゾール(Ketoconazole)、リアロゾール(Liarozole)およびR116010、さらに、シクロプロピルアリール、シクロプロピルヘテロアリール、シクロプロピルアミノアリール、または(1-イミダゾリル)メチルアリール構造を持つ酵素シトクロムP450RAIに対して阻害作用を持ついくつかの化合物が知られている(特許文献1参照)。先行技術では、ヒトを含む哺乳動物にある種のシトクロムP450RAI阻害剤を投与すると内因性RAレベルの有意な増加が起こること、そしてシトクロムP450RAI阻害剤、例えばリアロゾールによる処置は、レチノイドによる処置と類似する効果、例えば乾癬の改善をもたらすことが指摘されている(非特許文献3参照)。

本発明に関連して、特許文献1には、レチノイドは、胚発生の期間中遺伝子発現を調節すること、および、例示的なレチノイド反応性障害(disorders than can be treated)としては、挫創等の皮膚障害、自己免疫性障害、炎症性障害、増殖性障害、神経障害、視覚障害および肺障害が挙げられており、レチノイド反応性障害を有するヒトを処置するための方法としてシトクロムP450RAI阻害剤の使用が単独かもしくはレチノイド処置と組み合わせて、個体中のレチノイドのレベルを有益に維持するかもしくは増大させる技術が開示されている。当該文献の実施例には、ハムスター腹側部器官における皮脂腺の分化についての実験において、シトクロムP450RAI阻害剤の経口強制栄養法により、皮脂腺の分化をブロックすることが記載されている。特許文献2には、シトクロムP450RAI阻害剤として作用する可能性のあるいくつかの化合物が示されている。しかし、培地添加物としてのシトクロムP450RAI阻害剤の具体的な利用方法は検討されておらず、またiPS細胞の心筋細胞への分化誘導に関する具体的な事例は開示されていない。

化学分子データベースPubChem(https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov)から、Pioglitazoneの試薬名や化学式は提示可能である。 Pioglitazone(5-[[4-[2-(5-ethylpyridin-2-yl)ethoxy]phenyl]methyl]-1,3-thiazolidine-2,4-dione、化2参照)は、チアゾリジン(Thiazolidinedione)誘導体の一種である。

【化2】
(省略)

チアゾリジン誘導体とはチアゾリジンから合成される一群の化合物であり、例えば、〔〔ω-(ヘテロシクリルアミノ)アルコキシル〕ベンジル〕-2、4-チアゾリジンジオン、(±)-5-〔〔2-(2-ナフタレニルメチル)-5-ベンゾキサゾイル〕メチル〕-2、4-チアゾリジンジオン等が例示される。具体的に、インスリン抵抗性改善薬として利用されるロシグリタゾン(Rosiglitazone:グラクソ・スミスクライン)、ピオグリタゾン(Pioglitazone:武田薬品工業)、ロべグリタゾン(Lobeglitazone:Chong Kun Dang)、トログリタゾン(Troglitazone:第一三共)、リボグリタゾン(Rivoglitazone:第一三共)、または、シグリタゾン(Ciglitazone:武田薬品工業)等が挙げられる。チアゾリジン誘導体は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ作動薬であり、脂肪組織や肝臓・骨格筋のインスリン感受性を増加させ、慢性的な高血糖を改善する。先行技術では、インスリン、トランスフェリン、デキサメタゾン、ビオチン、アスコルビン酸、グルコース、上皮成長因子若しくは繊維芽細胞成長因子、ならびに亜セレン酸若しくはその塩を含有し、かつインドメタシン、プロスタグランジン、長鎖脂肪酸およびチアゾリジン誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を加えた栄養培地を使用することにより、無血清あるいは低血清状態で初代前駆脂肪細胞を分化誘導することができることが指摘されている(特許文献3参照)。

本発明に関連して、特許文献4には、非ステロイド性抗炎症剤またはチアゾリジン誘導体が骨・軟部に発生する巨細胞性腫瘍または軟骨肉腫のPPARγの発現を誘導し、それによってアポトーシスまたは脂肪細胞分化を誘導することで骨・軟部に発生する巨細胞性腫瘍または軟骨肉腫の予防または治療剤として利用可能とするためのスクリーニング方法が記載されている。しかし、特許文献4には、培地添加物としてのPioglitazoneの具体的な利用方法は検討されておらず、またiPS細胞の心筋細胞への分化誘導に関する具体的な事例は開示されていない。

化学分子データベースPubChem(https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov)から、Silibinin(Silybin)の試薬名や化学式は提示可能である。 Silibinin(Silybin)((2~{R},3~{R})-3,5,7-trihydroxy-2-[(2~{R},3~{R})-3-(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-2-(hydroxymethyl)-2,3-dihydro-1,4-benzodioxin-6-yl]-2,3-dihydrochromen-4-one、化3参照)は、マリアアザミ(Silybum marianum)種子の標準化された抽出物であるシリマリン(Silymarin)の主要な活性成分である。

【化3】
(省略)

シリマリンには、シリビニン(silibinin)、シリジアニン(silydianin)、イソシリビン(isosilybin)、シリクリスチン(silychristin)などがある。シリマリンには、グルコ-スの取り込みの阻害作用、低酸素誘導因子(HIF)活性の阻害作用、PI3/Akt/mTORシグナル伝達系の阻害作用など、複数の機序で癌細胞のワールブルグ効果を阻害する作用が報告されている(非特許文献4参照)。

本発明に関連して、特許文献5には、シリマリンは、哺乳類の眼の角膜及び/又は強膜を通じた眼科用の浸透促進剤、浸透増進剤、吸収増進剤の機能成分として用いられ、角膜上皮細胞の再生に対しても使用例が上げられている。特許文献6には、シリマリンは、加齢及び免疫老化に関係する病気の治療目的として造血幹細胞の機能低下、及び、抗癌効果を目的とした栄養補助食品としての利用例が上げられている。しかし、培地添加物としてのシリマリンの具体的な利用方法は検討されておらず、またiPS細胞の心筋細胞への分化誘導に関する具体的な事例は開示されていない。

化学分子データベースPubChem(https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov)から、Chrysinの試薬名や化学式は提示可能である。 Chrysin(5,7-dihydroxy-2-phenylchromen-4-one、化4参照)は、果実の果皮、トケイソウやプロポリスなどに含まれるフラボノイドの一つである。また、プロポリスの主要な活性成分として知られる。

【化4】
(省略)

クリシンには、COX-2遺伝子やプロスタグランジンE2の阻害作用など抗炎症作用(非特許文献5参照)、低酸素誘導因子(HIF)活性の阻害作用(非特許文献6参照)が報告されている。

本発明に関連して、非特許文献7において、クリシンは、ヒト癌細胞に対する増殖抑制作用を有し、特に白血病に関連した癌細胞株には他のフラボノイドと比較して特に強いアポトーシスの誘導効果があることが開示されている。また、同効果の作用機序にAktシグナル伝達の阻害が関与することが報告されている(非特許文献7参照)。しかし、培地添加物としてのクリシンの具体的な利用方法は検討されておらず、またiPS細胞の心筋細胞への分化誘導に関する具体的な事例は開示されていない。

産業上の利用分野

本発明は、幹細胞由来の分化細胞用培地、幹細胞からの分化細胞の製造及び該分化細胞を含む細胞医薬組成物の製造のための方法に関する。より詳しくは、特に心筋細胞に好適に用いられる分化コントロール化合物(Liarozole、Pioglitazone、Silibinin、Chrysin)によって幹細胞の生存を抑制して目的とする分化細胞のみを選択的に培養可能な培地等に関する。

特許請求の範囲 【請求項1】
分化コントロール化合物として、Liarozole、Pioglitazone、Silibinin、Chrysinのいずれか又は複数を含み、下記(a)から(c)のいずれかにおいて、培養または/および保存のために用いられる培地。(a) 幹細胞(b) (a)と幹細胞由来分化細胞(c) (b)と幹細胞由来分化細胞から作製された臓器

【請求項2】
前記幹細胞が誘導性多能性幹細胞である請求項1記載の培地。

【請求項3】
前記分化細胞が心筋細胞である請求項1又は2に記載の培地。

【請求項4】
前記幹細胞がヒト由来である請求項1~3のいずれか一項に記載の培地。

【請求項5】
分化コントロール化合物を濃度10~500μMで含む請求項1~4のいずれか一項に記載の培地。

【請求項6】
前記培地が無血清培地である、請求項1~5のいずれか一項に記載の培地。

【請求項7】
前記請求項1から6のいずれか一項に記載の培地を作製するための培地作製用組成物。

【請求項8】
前記請求項1から6のいずれか一項に記載の培地を用いて作製した分化細胞。

【請求項9】
前記分化細胞が、心筋細胞である請求項8記載の分化細胞。

【請求項10】
分化コントロール化合物として、Liarozole、Pioglitazone、Silibinin、Chrysinのいずれか又は複数を有効成分とする幹細胞生存抑制剤。

【請求項11】
前記幹細胞が誘導性多能性幹細胞である請求項10記載の幹細胞生存抑制剤。

【請求項12】
前記幹細胞がヒト由来である請求項10又は11に記載の幹細胞生存抑制剤。

【請求項13】
幹細胞由来の分化細胞を含む細胞医薬組成物の生体内での腫瘍化を抑制するための医薬組成物であり、請求
項12記載の幹細胞生存抑制剤を含む医薬組成物。

【請求項14】
幹細胞から分化細胞を製造する方法であって、分化誘導後の細胞を分化コントロール化合物として、Liarozole、Pioglitazone、Silibinin、Chrysinのいずれか又は複数により処理する工程を含む方法。

【請求項15】
前記幹細胞が誘導性多能性幹細胞である請求項14記載の方法。

【請求項16】
前記分化細胞が心筋細胞である請求項14又は15記載の方法。

【請求項17】
前記幹細胞がヒト由来である請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。

【請求項18】
幹細胞を培養する工程と、幹細胞を分化誘導する工程と、をさらに含む請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。

【請求項19】
幹細胞由来の分化細胞を含む細胞医薬組成物を製造する方法であって、前記幹細胞を分化誘導する工程と、分化誘導後の細胞を分化コントロール化合物として、Liarozole、Pioglitazone、Silibinin、Chrysinのいずれか又は複数により処理する工程と、を含む方法。

【請求項20】
前記幹細胞が誘導性多能性幹細胞である請求項19記載の方法。

【請求項21】
前記分化細胞が心筋細胞である請求項19又は20記載の方法。

【請求項22】
前記幹細胞がヒト由来である請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。

【請求項23】
幹細胞を培養する工程と、をさらに含む請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。

【請求項24】
幹細胞及び分化細胞を含む細胞混合物から分化細胞のみを分離する方法であって、前記細胞混合物を分化コントロール化合物として、Liarozole、Pioglitazone、Silibinin、Chrysinのいずれか又は複数により処理する手順を含む方法。

【請求項25】
前記幹細胞が誘導性多能性幹細胞である請求項24記載の方法。

【請求項26】
前記分化細胞が心筋細胞である請求項24又は25記載の方法。

【請求項27】
前記幹細胞及び前記分化細胞がヒト由来である請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。

【請求項28】
幹細胞を培養する工程と、幹細胞を分化誘導する工程と、をさらに含む請求項24~27のいずれか一項に記載の方法。

【請求項29】
請求項1記載の培地、請求項7記載の培地作製用組成物、請求項10記載の幹細胞生存抑制剤、請求項13記載の医薬組成物の製造のための分化コントロール化合物としてのLiarozole、Pioglitazone、Silibinin、Chrysinの単体もしくは組み合わせでの使用。

【請求項30】
幹細胞由来の分化細胞を含む細胞医薬組成物の製造のための分化コントロール化合物としてのLiarozole、Pioglitazone、Silibinin、Chrysinの使用。

【請求項31】
幹細胞由来の分化細胞を含む細胞医薬組成物の生体内での腫瘍化を抑制するための分化コントロール化合物としてのLiarozole、Pioglitazone、Silibinin、Chrysinの使用。
国際特許分類(IPC)
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出願権利状態 公開
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