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呼吸計測方法および装置 新技術説明会

国内特許コード P150011310
整理番号 S2012-0945-N0
掲載日 2015年2月16日
出願番号 特願2012-163670
公開番号 特開2014-023550
登録番号 特許第6014846号
出願日 平成24年7月24日(2012.7.24)
公開日 平成26年2月6日(2014.2.6)
登録日 平成28年10月7日(2016.10.7)
発明者
  • 青木 広宙
  • 古川 亮
  • 佐川 立昌
  • 川崎 洋
出願人
  • 公立大学法人広島市立大学
  • 国立研究開発法人産業技術総合研究所
  • 国立大学法人鹿児島大学
発明の名称 呼吸計測方法および装置 新技術説明会
発明の概要 【課題】自転車ペダルこぎ運動中の非接触呼吸計測において呼吸波形のみを正確に抽出する呼吸計測方法及び装置を提供する。
【解決手段】自転車エルゴメータを運転する人の胸腹部の距離変動分布を算出することで人の呼吸を非接触で計測する呼吸計測方法において、人の胸腹部に該当する領域を格子状の複数の領域に分割する第1のステップと、第1のステップで分割された各領域の距離変動を周波数分析する第2のステップと、第2のステップの周波数分析の結果から各領域の主要周波数を算定する第3のステップと、第3のステップで各領域の内で算定された主要周波数が呼吸周波数である呼吸主要領域のみを抽出する第4のステップと、第4のステップで抽出された各呼吸主要領域において距離変動波形に対し呼吸周波数帯のバンドパスフィルター処理を行うことで呼吸波形を抽出し全呼吸主要領域における平均呼吸波形を算出する第5のステップと、を含む。
【選択図】図1
従来技術、競合技術の概要

運動負荷試験とは、運動中の心拍応答や血圧あるいは心電図など、医学的な側面から身体の生理学的な変化を確認し、より安全に効果的な運動を行なうために実施される体力測定・運動能力測定である。

運動負荷試験において算定される指標のひとつとして、嫌気性作業閾値(AT:Anaerobic Threshold)が知られている。ATは最大酸素摂取量と同様に全身持久力(スタミナ)の体力指標として用いられ、最大限までの運動を実施しなくても算定可能であることから、健康づくりや生活習慣病の予防・改善を目的とした運動における強度の目安として広く利用されている。ATにおける運動強度は、最大運動の50~60%程度の運動強度に相当し、かつ、キツさを感じない程度の無理なく実施可能な運動である。血液中の乳酸が急増しないため運動を長時間持続でき、息切れを起こさない、心臓への負担が少ないという利点がある。

このATは概念的な指標であることから、より具体的な指標として、換気性作業閾値(VT:Ventilation Threshold)や乳酸性作業閾値(LT:Lactate Threshold)が、指標として利用されている(非特許文献1)

運動負荷試験では、呼気ガス分析装置を併用することで、非侵襲的に全身持久性体力や運動の安全限界などを客観的に測定できる。特に、直線的漸増負荷法(ランプ負荷法)は、安全性と効果の両面で有効とされるVTを測定する上で有効な方法と考えられている。ランプ負荷法は、自転車エルゴメータを用いて行われるのが一般的であり、ランプ負荷法による測定の利点として、運動の強度を定量化できること、また、負荷を細かく設定できることが挙げられる。

VTは、筋肉への酸素供給が十分に足りている状態から不足が生じる状態に移行する変化点となる運動強度であり、この変化点は、運動負荷の漸増に伴い、以下の生理現象として現れる。

1)酸素摂取量の増加に対して二酸化炭素排出量の増加が上回る。

2)換気量の増加割合が上昇する。

VT算定において用いられる呼気ガス分析装置は、流量計、酸素濃度計、二酸化炭素濃度計からなる測定部分と、それらの測定値からVO2、VCO2、VEなどの基本的パラメータを計算する演算部、さらにこれらのデータに心拍数や血圧などを加えてモニター画面に表示したり、ATなどを決定するための解析部からなる。ガス分析器と流量計の組合せによる測定モードとしてはBreath-by-breath法が広く用いられている。Breath-by-breath法においては、呼気と吸気のガス濃度の差からVO2、VCO2を求める方法である。他にも、Mixing chamber法と呼ばれる方法が知られているが、非定常状態では誤差が大きく測定値の信頼性が極めて低下することから、漸増負荷試験にはBreath-by-breath法が適していると考えられている(非特許文献2)。

しかし、一般に、呼気ガス分析装置は大変に高価であるため、医療機関や研究機関でしか利用されていないのが現状であり、スポーツクラブなどで気軽に利用することはできない。呼気ガス分析装置による測定時には、口鼻を覆う形でマスクを着用する必要があるため、運動中の呼吸が自然な状態であるとは言い難い。また、測定終了後にマスクの洗浄が必要である。このため、拘束感が少なく簡便な測定が実施しにくいといった欠点を持つ。

本発明の発明者の内のひとりは、VTが運動負荷の漸増に伴い換気量の増加割合が上昇する点として現れることに着目し、画像工学技術を応用した非接触呼吸計測方法を応用したVT算定方法について提案している(非特許文献3)。この非接触呼吸計測方法は、胸腹部に投影しパターン光を撮影し、動画像解析することにより非接触での呼吸計測を実現するものであり、本発明の発明者の内のひとりによってなされた発明(特許文献1)に示された非接触呼吸計測方法に基づくものである。

非特許文献3においては、リカベント型自転車エルゴメータによるペダルこぎ運動中の非接触呼吸計測が実現できることが明らかとなり、さらに、VT算定が高い精度で実施可能であることが示されている。非特許文献3に示された非接触呼吸計測方法を応用したVT算定方法について以下に説明する。

図10および図11にシステム構成の概要を示す。図10にはリカンベント型自転車エルゴメータを用いる場合の構成が、図11にはアップライト型自転車エルゴメータを用いる場合の構成が、それぞれ記されている。

システムにおいては、パターン光投影装置101および撮像装置102が、自転車エルゴメータ103でペダルこぎ運動を行う被験者104の正面に設置される。そして、パターン光投影装置101から被験者104の胸腹部にパターン光105が投影される。パターン光は撮像装置102により撮影され、画像処理装置106に動画像として取り込まれる。撮影される画像には、被験者の胸部、腹部、足の付け根が撮影される。被験者は、測定中、ペダルこぎ運動を行う。

三角測量の原理に基づき、パターン光の画像中での座標は、実空間においてパターン光が投影されている座標と対応する。すなわち、画像中でのパターン光の分布は、被験者の胸腹部の三次元形状を反映している。当該手法はパターン光を投影しその分布を画像解析することで三次元形状を復元するアクティブステレオ法の一種であると言える。

被験者の胸腹部の距離変化、すなわち、呼吸の上下動に伴い、動画像中のパターン光は画像中を周期的に移動する。動画像中のパターン光が移動する方向は、パターン光投影装置と撮像装置とを結ぶ方向である。図12に示す光学配置において被験者121の胸郭部の上下動ΔZと撮像素子122上(すなわち画像中)でのそれぞれのパターン光123の移動量ΔPとの間には次の数式の関係が成り立つ。

【数1】
(省略)

(1)

ここで、Lはパターン光投影装置のレンズ中心124と撮像装置のレンズ中心125との距離、Zはパターン光が投影された部位126と線分Lとの距離、ΔZはパターン光が投影された部位126の変動距離、デルタPは画像中におけるパターン光123の移動距離をそれぞれ示している。前記数式(1)は、三角測量の原理に基づくものである。Z>>ΔZであるから、画像中でのパターン光123の移動距離は、パターン光が投影された部位126の動きの大きさ、すなわち、被験者の動きの大きさと、比例関係にあると言える。

呼吸を測定するために、まず、パターンのフレーム間移動量を算出する。そして、各パターンのフレーム間移動量を、全パターンについて総和を算出する。前記の通り、パターンのフレーム間移動量は三角測量の原理に基づき体表面と撮像装置との距離変化に相当することから、パターンのフレーム間移動量の総和は体積変化に相当する量である。

被験者がペダルこぎ運動をせずにじっとしている状態(安静状態)においては、胸腹部に表れる動きは呼吸によるものである。したがって、パターンのフレーム間移動量の総和を時系列に並べることで呼吸波形が得られる。波形の正負符号は呼吸の状態を示し、呼気状態と吸気状態では符号が逆転する。

前述の通り、当該手法は三角測量の原理に基づく測定法であることから、呼吸波形の積分値は、呼吸に伴う胸腹部の体積変動に相当する量である。それぞれの積分値の値を準一回換気量(QTV)と定義する。このQTVは実際の呼吸流量である一回換気量TVに準ずることから、QTVと1分間当りの呼吸数との積は、分時換気量(VE)に相当するものと考えることができる。ここで、QTVと1分間当りの呼吸数の積を、準分時換気量(QVE)と呼ぶこととする。当該手法においては、運動強度漸増に伴うQVEの増加率が変化する点に対応する運動強度をVTとして算定するものである。

被験者がペダルこぎをしている状態では、胸腹部には呼吸による動き以外にペダルこぎによる動きが含まれるため、フレーム間移動量を時系列に並べて得られる波形は呼吸運動とペダルこぎ運動の合成波形である。上記のQVEの算出においては、ペダルこぎ運動成分はノイズ成分となるため、ペダルこぎ運動成分を除去する必要がある。

当該手法では、被験者のペダルこぎのペダル回転数を、自転車エルゴメータによる運動で一般的に利用されるペダル回転数である60回転/分(1Hz)と定めることとした。被験者がペダルこぎを行っている状態で算出される波形から、ペダル回転数に対応する周波数(1Hz)よりも高い周波数成分を、ローパスフィルタ処理によりカットすることで、呼吸運動の周波数成分のみを抽出する。ローパスフィルタ処理によって抽出された呼吸運動成分波形は、呼吸の周期変動を示す。一般に自転車エルゴメータでは、ペダル回転数がメトロノーム音によって管理されるが、実際には誤差が含まれるため呼吸周波数以上の周波数成分をカットする。

図13のグラフ中の細線は、運動強度100~140W時に実測された波形である。この測定波形から0.916Hz以下の低周波成分を抽出することで細線に示すような呼吸運動成分のみを抽出することが可能である。

図14はランプ負荷法における当該非接触呼吸計測手法のQVE算定結果について示したグラフである。図14(1)はリカベント型自転車エルゴメータによる結果、図14(2)はアップライト型自転車エルゴメータによる結果をそれぞれ示している。同時計測結果として、呼気ガス分析装置による直接計測により得られたVEを併せて示している。この結果より、運動強度の漸増にともなうQVEとVEの変化は傾向として一致していることがわかる。すなわち、この結果は、当該非接触呼吸計測手法においても、呼気ガス分析装置と同様に運動強度漸増に伴う呼気量の変化を捉えることができていることを示している。

一方で、部分的に両者の値に乖離が見られ、運動強度が増加するに連れて乖離が大きくなっていることがわかる。特に、アップライト型自転車エルゴメータにおいては、乖離の度合いが大きい。これは、運動強度の増加に伴い体動が大きくなるため、非接触呼吸計測手法において体動成分のカットが正確に行われていないためと考えられた。

このため、正確なVT算定のためには、より正確な運動中の非接触呼吸計測を実現する必要があるものと考えられた。

産業上の利用分野

本発明は、自転車エルゴメータによるペダルこぎ運動中の呼吸を非接触で計測する呼吸計測方法および装置に関するものである。

特許請求の範囲 【請求項1】
自転車エルゴメータを運転する人の胸腹部の距離変動分布を算出することでその呼吸を非接触で計測する呼吸計測方法において、
前記人の胸腹部に該当する領域を格子状の複数の領域に分割する第1のステップと、
該第1のステップで分割された各領域についてアクティブステレオ法に基づいて取得した距離変動を周波数分析する第2のステップと、
該第2のステップの周波数分析の結果から得られたパワースペクトラムのピークの大きさが最大となる周波数を各領域の主要周波数として算定する第3のステップと、
該第3のステップで各領域の内で算定された主要周波数が呼吸周波数である呼吸主要領域のみを抽出する第4のステップと、
該第4のステップで抽出された各呼吸主要領域において距離変動波形に対し呼吸周波数帯のバンドパスフィルター処理を行うことで呼吸波形を抽出し全呼吸主要領域における平均呼吸波形を算出する第5のステップと、
を含むことを特徴とする呼吸計測方法。

【請求項2】
自転車エルゴメータを運転する人の胸腹部の距離変動分布を計測することでその呼吸を非接触で計測する呼吸計測装置であって、
アクティブステレオ法に基づいて前記人の胸腹部の距離分布情報を取得する距離分布取得手段と、
該距離分布取得手段により取得された距離分布を時系列に差分することで距離変動分布を算出する距離変動分布取得手段と、
該距離変動分布取得手段により取得された距離変動分布において前記人の胸腹部に該当する領域を格子状の複数の領域に分割する第1のステップと、該第1のステップで分割された各領域の距離変動を周波数分析する第2のステップと、該第2のステップの周波数分析の結果から得られたパワースペクトラムのピークの大きさが最大となる周波数を各領域の主要周波数として算定する第3のステップと、該第3のステップで各領域の内で算定された主要周波数が呼吸周波数である呼吸主要領域のみを抽出する第4のステップと、該第4のステップで抽出された各呼吸主要領域において距離変動波形に対し呼吸周波数帯のバンドパスフィルター処理を行うことで呼吸波形を抽出し全呼吸主要領域における平均呼吸波形を算出する第5のステップとを実行することで呼吸波形を取得する呼吸波形取得手段と、
を備えることを特徴とする呼吸計測装置。
国際特許分類(IPC)
Fターム
画像

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出願権利状態 登録
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